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熊本地方裁判所 昭和49年(行ウ)2号 判決 1978年7月19日

原告

株式会社ホテルエヤポート

右訴訟代理人

柴垣陸助

外一名

被告

熊本県公安委員会

右訴訟代理人

武田昌彦

外五名

事実《省略》

理由

一請求原因事実(一)項のうち旅館営業の許可年月日を除き、同(二)項のうちモーテル営業の廃止命令の年月日を除き、同(四)項のうち異議申立の年月日を除き、右各項記載事実は当事者間に争いがなく、<証拠略>によれば原告に対する旅館営業の許可年月日は昭和四八年七月一八日、モーテル営業の廃止命令のなされたのは同年一二月二一日、これに対する原告の異議申立年月日は同月二五日であつて、それぞれ被告主張の年月日であることが認められる。

二そこで、本件モーテル営業廃止命令処分(以下本件処分という。)の適法性について検討する。

(一)  まず、本件建物の設備についてみるに、<証拠>によれば、次の事実が認められる。

(1)  原告が営業をなしているホテルエヤポートの本件処分時の建物の構造(間取り)は別紙図面のとおりであつて、一階に自動車の車庫が番号1ないし3、5ないし8、11ないし13、15ないし18まで計一四室あり、二階に客用の個室が番号1ないし3、5ないし8、9ないし13、15ないし18まで計一五室あり、一階中央に建物を縦に通つている共同通路があり、二階中央にも同様に建物を縦に通つている共同通路があるが、二階は右通路の中央が防火扉でしきられている。一階から二階へ上るには、同図面表示の東階段と西階段の二つの階段のいずれかを利用するが、東階段から上つた場合は番号5ないし8、15ないし18の八室の個室のいずれかに入ることができ、西階段から上つた場合は番号1ないし3、9、11ないし13の個室の七室のいずれかに入ることができる。西階段の下にフロントが存するが、窓ガラスが閉まつていてレースのカーテンがかけられている。

車庫と個室は右の如く一階と二階にわかれて存し床を隔てて接しているが、車庫は一四個、個室は一五室でその数は一致せず、その番号は別紙図面のとおり付されていて、番号が対応する車庫と個室で上下の関係で重なり合うものは(不整形な重なり方を含めて)一つもない。

車庫に自動車が入つた場合は、従業員室に存するコントロール盤によりこれを察知した従業員が出ていつて、車庫入口にある高さ約1.8メートルの不透明なビニールのカーテンを閉じ、地上約四〇センチメートルのところにある鎖をかけ施錠するようになつている。車庫から共同通路へ出るには利用客用のとびらと、利用客の自動車のためのシヤツター戸があり、右シヤツターの開閉は右コントロール盤により従業員が電動式に行なう。

(2)  本件建物の利用客は、まず入口のカーテンの開いている車庫に自動車を入れ、利用客用のとびらを通つて一階共同通路に出て、東階段か西階段を上がり、二階共同通路を通つて、個室の上部に「サウナ」等その部屋の浴場設備の相違の表示が出ているのでこれを任意に選択し、かつ上部に「空室」とランプ表示のある個室に入室するのであるが、もし自分の上つた階段から通じている個室すべてが満室である場合は、一旦一階へ下りて別の階段より上りなおして二階共同通路を経て右同様「空室」のランプのついている個室に入室する。

利用客が帰る際は、個室より電話連絡して、個室出入口とびらの地上約1.45メートルの位置に存する小窓越しに従業員と料金授受をなすか、あるいは一階フロントにおいてこれをなし、車庫に戻り、車庫の自動車用のシヤツター戸を前記のとおり従業員が開けるので、ここから自動車で共同通路を経て外部に出るようになつている。

(二)  ところで、法四条の六第一項によれば、「個室に自動車の車庫が個々に接続する施設であつて総理府令で定めるものを設け、当該施設を異性を同伴する客の宿泊(休憩を含む。)に利用させる営業(以下「モーテル営業」という。)は、モーテル営業が営まれることにより清浄な風俗環境が害されることを防止する必要のあるものとして都道府県の条例で定める地域においては、営むことができない。」旨の規定があり、<証拠>によれば風俗営業等取締法施行条例(昭和三四年三月二六日熊本県条例第五号)三二条の二により本件建物の所在地はモーテル営業を営むことができない地域内であることが認められる。

そこで、法四条の六第一項にいう「個室に自動車の車庫が個々に接続する施設」とは如何なるものを指すかを検討するに、<証拠>によれば、法四条の六は昭和四七年の法改正により加えられたものであるが、当時異性同伴客に宿泊あるいは休憩のための施設を提供するいわゆるモーテル営業が全国的に増加し、住宅地域、健全行楽地域等においてその清浄な風俗環境がそこなわれ、また右モーテル営業の施設が構造上秘匿性に豊んでいるため性犯罪その他の犯罪が多発する傾向になつたことから右法改正が行なわれたもので、法四条の六第一項でモーテル営業を定義し、条例で定められた地域での同営業を禁止し、同第二項で既にモーテル営業を営んでいる者に対して改造等のため一年の猶予期間を与え、同第三項で第一項の規定に違反する者に対し公安委員会が営業の廃止を命じ得るものとしたものであること、右法律制定の際の衆参両院の地方行政委員会の審議によれば右規制の対象となるモーテル営業の施設とは車庫と個室が直結していて利用客の行動の秘匿性の極めて高いいわゆるワンルーム・ワンガレージ形式の施設が該当するものとされていたことが認められる。

このような法律制度の経過、立法趣旨、右条文が「個室に自動車の車庫が個々に接続する」と定めている文言ならびに右法律が引用する総理府令の文言、<証拠>(警察庁風俗係作成にかかる「総理府令で定めるモーテル営業の施設の図解」と題する書面)を綜合して考えると「個室に自動車の車庫が個々に接続する施設」とは、いわゆるワンルーム・ワンガレージ形式のものもしくは社会通念上これと同視し得るもの、すなわち特定の車庫と特定の個室が平面的、立体的に接着しているかもしくは専門の出入口、通路、階段、昇降機等により接続している構造設備であつて、利用客の行動の秘匿性の高いものを指すというべきである。

本件建物についてこれをみるに、一階の車庫に入つた利用客は二階個室のものを選んで任意に入室することができるのであるから、特定の車庫と特定の個室が接着もしくは接続しているとはいえないし、利用客は車庫から個室に至るまでの間、一階二階の各共同通路を使用しかつフロントの前を通過するのであるから、従業員ないし他の利用客と面接する機会があるのであつて、利用客の行動の秘匿性が高いといえず、このような施設は法四条の六第一項にいう「個室に自動車の車庫が個個に接続する施設」には該当しないものである。

被告は、総理府令一号が独立の規定として設けられている趣旨は、共同の通路や階段が設けられている施設であつても、車庫の出入口がしやへいされ、車庫内部の自動車の秘匿性、利用客の行動の秘匿性が解除されていないものは規制の対象とするものである旨主張するが、総理府令一号は法四条の六第一項による法律の委任を受けて規定されているものであるから、同法律の規定する範囲を越えて規制の対象となるべき施設を定めることはできないのであつて、当該施設が法四条の六第一項の「個室に自動車の車庫が個々に接続する施設」に該当しない以上、総理府令一号の定める要件に合致するからといつて、これをモーテル営業の施設ということはできない。

なお、被告は、原告が車庫の番号を書き換えて、同一番号の車庫と個室が上下の関係で重なり合わないように修正した旨主張するが、<証拠>によれば、原告が車庫の番号を書き換えたのは本件建物完成(昭和四八年六月末頃)後約一ケ月後のことであつて、原告が本件処分に関連した警察の指導を受けるようになる以前であることが認められ、特に右認定を覆すような証拠はないので、右書換の事実は本件処分と関係はない。

以上のとおりであるので、原告が営業をなしている本件建物がさらに総理府令一号に該当するか否かを判断するまでもなく、原告のなしている営業は法四条の六第一項が規制の対象としているモーテル営業ではないことになる。

三したがつて、被告が原告に対しモーテル営業の廃止を命じた本件処分は、その理由を欠くから違法であつて、取消を免れない。

よつて、本件処分の取消を求める原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(松田冨士也 関野杜滋子 西島幸夫)

別紙図面<省略>

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